理事長コラム
門司誠一の思いをつづります。
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2025.10.27
秋の澄んだ空に、無数の熱気球が舞い上がる――。
佐賀の風物詩としてすっかり定着した「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」は、まさに“空の祭典”と呼ぶにふさわしいイベントだ。例年10月末から11月初めにかけて、嘉瀬川河川敷を会場に世界各国から100機を超えるバルーンが集結する。朝焼けに照らされながらゆっくりと浮かび上がる姿は、何度見ても心を奪われる。バルーン競技は、単なる観光ショーではなく、れっきとした国際大会でもある。パイロットたちは風を読み、気流を計算しながらターゲットを目指す。ゴールに近づくほどに観客から歓声が上がり、早朝の冷たい空気が一瞬にして熱気に包まれる。競技者たちの真剣な表情と、カラフルな気球が織りなす光景は、スポーツの緊張感と芸術の美しさが同居した独特の魅力を放っている。
日中は地元グルメの屋台や特産品ブースが立ち並び、家族連れで賑わう。夜には「ラ・モンゴルフィエ・ノクチューン」と呼ばれる夜間係留が行われ、ライトアップされたバルーンが音楽に合わせて一斉に輝く。その幻想的な光景は、まるで星空が地上に降りてきたかのようだ。
このフェスタを支えているのは、数多くのボランティアや地域住民の力である。駐車場の整理から会場案内、選手のサポートまで、地域が一丸となってイベントを作り上げている。佐賀の人々の温かさが、訪れる人の心に残るのも納得だ。
「風を味方につける」――それはバルーンだけでなく、地域の未来づくりにも通じる言葉かもしれない。自然と共に生き、地元が一体となって夢を空に描く。佐賀インターナショナルバルーンフェスタは、そんな“地域のチカラ”を感じさせてくれる、日本有数の空の祭典である。
今年の開催期間は、 10月30日(木)~11月3日(月・祝)となっている。ぜひ一度、佐賀の空を見に来てほしい。

2015年の夜間係留 -
2025.10.24
このたびの内閣改造に伴い、佐賀県選出の参議院議員である福岡資麿厚生労働大臣がご退任されることとなりました。まずは、これまで国の福祉行政の最前線でご尽力されてこられたことに、心より感謝と敬意を申し上げます。
福岡大臣は、常に「現場を支える政策とは何か」を問い続けてこられた方でした。大臣としてのご在任期間は決して長いものではありませんでしたが、その間にも、社会保障制度の持続可能性や人材の確保、そして地域包括ケアの推進など、現場の私たちが日々直面する課題に真正面から向き合い、丁寧に耳を傾けてくださいました。
社会福祉の世界は、制度の改革や数値の改善だけでは測りきれないものがあります。困難な現実に直面しながらも、利用者の笑顔や小さな変化を支え続ける現場の力こそが、地域を動かしています。福岡大臣が示された“現場を信じる政治”の姿勢は、私たちがこれからも大切にしていきたい灯です。
福岡大臣の温かいご指導とご尽力に、心より感謝申し上げます。どうかこれからも、その豊かなご経験を通じて、社会福祉の未来を見守り、支えていただければと願っております。 今後は参議院の拉致問題等特別委員会の委員長を務められると伺っておりますので、今後の更なるご活躍を期待しております。
長きにわたるご奮闘、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。
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2025.10.22
――社会福祉法人の経営現場から見た課題と希望―
高市政権が発足し、日本社会は新たな転換期を迎えている。人口減少と超高齢化が進み、地域の力が弱まりつつあるいま、政治がどのように「持続可能な福祉」を構築していくのかは、社会全体の命運を左右する課題である。社会福祉法人の経営に携わる者として、私はこの政権に、理念だけでなく現場の経営実態に即した政策展開を強く期待している。
福祉経営の現場では、まず「人材確保」と「処遇改善」が最大のテーマである。人材は法人の資本そのものだ。採用が難しいだけでなく、離職防止や育成にも長期的な視点が求められる。いま必要なのは、単なる賃上げ政策ではなく、職員が将来設計を描けるようなキャリア構築支援と、地域間・法人間の格差を是正する仕組みだ。福祉人材の確保・育成を国家戦略の一部として位置づけてほしい。
また、社会福祉法人の経営は「公的責任」と「経営合理性」の両立という難題を常に抱えている。限られた介護報酬の中で質を維持しながら経営を成り立たせるためには、効率化と創意工夫が不可欠だ。しかし、現在の制度は報酬体系・補助金制度・監査基準が複雑で、現場は事務負担に追われている。高市政権には、現場を信頼した制度の簡素化、そして成果を「書類」ではなく「利用者の生活の質」で評価する柔軟な仕組みを求めたい。
財政面では、社会保障費の増大が避けて通れない中で、「持続可能性」と「公平性」の両立が問われている。高市氏が掲げる「全世代型社会保障」の理念は評価できるが、その実現には、国・自治体・事業者・国民それぞれが適切に負担を分かち合う構造が必要だ。たとえば、社会福祉法人が地域の公益活動(見守り、防災支援など)を担う際、財源が伴わなければ継続は難しい。補助金や交付金を単発的な事業ではなく、中長期的な地域インフラ整備の投資と位置づけてほしい。
加えて、社会福祉法人が今後の地域経営に果たす役割も大きい。かつては「施設を運営する法人」という認識が強かったが、これからは地域の課題解決に主体的に関わる「地域経営体」へと進化する必要がある。たとえば、医療・介護・子育て・障がい福祉を横断的に連携させ、地域の暮らしを丸ごと支えるような取り組み。そこに政策的な支援と柔軟な規制緩和があれば、法人の持つ人材・ノウハウ・信頼を生かした新しい地域づくりが進むはずだ。
経営の視点で言えば、デジタル化と人の力の調和も鍵を握る。DX(デジタルトランスフォーメーション)はもはや避けて通れないが、導入コストや運用支援なしに現場が対応できるわけではない。ICT化は人件費削減のためでなく、「人が人に向き合う時間を生み出すための投資」として位置づけるべきだ。高市政権が得意とするテクノロジー分野で、福祉DXの基盤整備を進めてほしい。
また、災害・感染症・エネルギー危機といったリスク対策も、経営の重要課題になっている。施設は地域の避難拠点であり、命を守るインフラでもある。国土強靭化を掲げるなら、その中に「福祉・医療・防災の連携強化」を明確に位置づけてほしい。非常用電源や備蓄設備への支援、緊急時の物資・人材供給体制の整備など、具体的な施策を期待する。
社会福祉法人は、民間企業とも行政機関とも異なる立場にある。公共性と自立性を両立させながら、地域社会に密着した経営を続けていくためには、政治の理解と後押しが欠かせない。高市政権には、現場の声を丁寧にすくい上げ、「制度を作る側」と「支える側」が対話できる関係を築いてほしい。
福祉の経営は、数字だけでは測れない「人の幸福」を扱う経営である。だからこそ、効率よりも持続性、成長よりも信頼を大切にしたい。国の政策がその価値観と歩調を合わせるとき、福祉は単なる支出ではなく、社会の未来への「投資」として機能する。
地域を支える現場の努力と、国が描く政策の方向がしっかり噛み合えば、日本の福祉はまだ進化できる。高市政権には、「現場の実感に根ざした政治」をぜひ実現してほしい。それが、真に豊かで温かい国づくりの第一歩になると信じている。

毎年、佐賀市嘉瀬川河川敷で開催される「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」 -
2025.10.21
2025年7月の参議院選挙をめぐり、大阪府内の老人ホームで入居者約30人分の投票用紙が偽造されたとして、施設関係者3人が公職選挙法違反(投票偽造)の疑いで書類送検された。大阪府警によると、3人は入居者本人の意思を確認せず、特定候補者の名前を投票用紙に記入していたとされる。
高齢者施設では、身体的・認知的な理由で投票所へ行けない入居者が多く、不在者投票制度が利用されている。投票を支援する職員にとって、手続きの補助は「日常業務の一部」のように感じられるかもしれない。
だが、その支援が「代筆」や「誘導」に変わる瞬間、法を越える行為となる。
「○○さん、この人が介護を良くしてくれそうですよ」
「ここに書けば大丈夫です」
そんな何気ない言葉や行為が、本人の意思を歪める。本人の自由な判断を奪えば、それはもはや支援ではなく介入だ。介護職員の多くは、善意から動く。だからこそ、「善意が越えてはいけない一線」を、私たちは明確に理解しておく必要がある。
今回の不正は単なる個人の逸脱ではなく、組織的・構造的な問題の一端である可能性がある。上司や団体からの指示がなくとも、「業界のため」という大義名分や「みんなそうしている」という雰囲気が、行動を正当化してしまうことがあるのだ。
介護現場に限らず、日本社会では「空気を読むこと」が重んじられる。だが、その空気が個人の良心を抑え、法を曖昧にする時、私たちは危険な道を歩み始めている。
介護は、人の尊厳を支える仕事だ。食事や入浴の支援と同じように、「意思を尊重すること」もまた介護の核心にある。選挙権は、その尊厳を象徴する権利のひとつである。
「認知症があるから」「判断力が落ちているから」といって、誰かが代わりに投票を決めてよい理由にはならない。むしろ、意思の確認が難しいからこそ、慎重でなければならない。
今、全国の介護現場では「本人の意思確認をどう行うか」「支援と誘導をどう分けるか」という実務的な課題に直面している。制度的にも、職員が安心して法を守れるよう、研修やマニュアルの整備が急務だ。
投票支援とは、手を貸すことではなく、意思を尊重する姿勢のことだ。
私たちは、介護を通して人の尊厳を支えながら、社会の民主主義をも支えている。今回の事件を「一部の不正」と片づけず、「支援とは何か」「権利とは何か」を問い直す契機としたい。介護の現場が、誰かの意思に左右される場所ではなく、一人ひとりの声が守られる場であり続けることを、社会全体で支えていく必要がある。

ケアハウスの不在者投票
